私のお散歩日和。 Vol.2 市村美佳子
「好きなことを続けた先に、出会った第二の地」
私のお散歩日和。
Vol.2 市村美佳子
「好きなことを続けた先に、出会った第二の地」
2024.09.09
会社を出て最寄駅から家までの帰り道。いつものスーパーまでの道のり……。変わらない目的地と、見慣れた風景を歩く毎日だけでは歩く楽しさを忘れてしまいがち。目的なんてなくても良い、どんな道のりでも良い。ただ自分が一歩進みたい場所へ歩いてみよう。そんな連載「私のお散歩日和。」の第二回目を歩くのは、花とともに人生を生きるフラワーデザイナーの市村美佳子さん。東京・青山で花教室を主宰しながら「エプロン商会」や「花瓶専門店」も営む市村さんは、4年前に神奈川・葉山に家を借り二拠点生活を始めた。“海”という景色が人生と交差したその時、どんな新しい一歩が始まったのだろうか。
好きな道を歩き続けること
太陽の光が海に反射し水が煌めき、優しい風が吹いている。フラワーデザイナーの市村美佳子さんが歩いたのは、神奈川県葉山町にある諏訪海岸。この場所と出会ったのは4年前。二拠点生活を思い立った頃は山形県出身ということもあり、山が連なる地域で家を探していたが東京にも通いやすい葉山の家を偶然見つけ、この場所に決めた。実際に住んでみると海とこの街の生活が意外にも心地よかったそうだ。話を聞いていると、花という存在もフラワーアーティストを志す前から市村さんにとって心地のよいものだったように感じた。「母は私より100倍、花が好きなんです。家に花がないということがなく、母は毎日家に飾ってある花を深水に入れて朝起きると全て生け替えていました。一人暮らしを始めて寂しさを感じた時には、母から『花でも飾りなさい』と言われ、花を一本飾ったりしていて。気づけばいつも近くに花があったように思います」。
大学卒業後ロイヤルコペンハーゲンに勤め、店内に花を飾る仕事を始めると市村さんと花の関係は、より深いものになっていく。フラワーデザインのノウハウを学ぶためフラワースタジオに通い始めると、花とロンドンでの暮らしに憧れを抱き渡英。美術館やアンティークマーケットを巡り、あらゆる感性を吸収して生活に根付く花のあり方を見つけていった。その後から現在に至るまで東京・青山で花教室を開きながら、「エプロン商会」や「花瓶専門店」なども営んでいる。人生で大切なことについて尋ねると市村さんは「好きなものを一生懸命に続けること」と答えた。「もちろんこれまで不安なこともあったけれど、好きなことをしている素敵な大人たちが周りにたくさんいたので、大丈夫だと思えたし、素敵な味方がいたことは私にとってとても心強かったです」。
選ぶ靴は足元をしっかり
支えてくれる安心感のあるもの
フラワーデザイナーの仕事は力仕事が多いと話す市村さん。教室や生け込みで使う花々の買い付けのため、朝5時前に市場へ向かう。花市場の中の仲卸店を何度も行き来するので、靴選びは華奢なものではなくしっかりと支えてくれる点を重視するという。「市場へ行く日は朝4時に出発して5時前から市場で買い付けをします。そこから青山のアトリエで花の水揚げをして、生け込みの準備をします。とにかくたくさん歩く仕事なので、踏み込みがしやすい安心感のある靴を選びます。アキレス・ソルボは優しい履き心地でホールド感もしっかり感じられる。仕事の時はもちろんですが、自然の多い葉山の街でも生活に馴染んでくれますね。少し汚れてもそれはそれで味わい深くなり愛着が湧きますね」。
花も人も、化学反応を楽しむ
都会とは違う人々との出会いもある。釣りをしている人、畑仕事をしている人、海で遊んでいる子どもたち……。そんな景色を眺めながら海岸沿いをお散歩する市村さん。夏は畑用の作業着の下に水着を着て畑仕事を行い、そのまま海に入って帰ってくることも。人と人が出会い化学反応が起こるかのように、花と花瓶の関係も同じだと語る。「花は花瓶が命なんですよね。無個性な花瓶に入れても何も起こらないけど、花瓶に個性と力があれば一本でも十本でも美しく見せてくれる。教室の生徒さんもうちの花瓶で生けると上手くなった気がすると言ってくれて。それで花瓶専門店を作ったんです。和物から洋物、サイズも大小バリエーション豊かに集めて、もっと花たちの可能性を楽しんでほしいと思っています。また市場で買ってくる花ももちろん素敵ですが、山や自然に咲いている花々には全然違うエネルギーを感じるんです。今後は自分の畑で育てた花を使って、葉山でも花教室を開きたいなと思っています」。
お散歩帰りに見つけた花々を持ち帰り、迷うことなく花瓶に生けたオレンジの花は強くて優しい凛とした表情を見せ、市村さんの生き方を物語っているようだった。
市村さんが着用したシューズはこちら。※防水シューズではありません
「N512」モデル 白 ¥24,200(税込)
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市村美佳子(いちむら・みかこ)
フラワーデザイナー、株式会社緑の居場所 代表取締役。大学卒業後、株式会社ロイヤルコペンハーゲンに入社。丸の内本店で店内の花装飾を担当したことをきっかけに通ったフラワーアレンジメント教室の講師、あんりゆき氏のイギリス暮らしと花に憧れて渡英。現地でフラワーアレンジメントを学ぶ。
帰国後、東京・南青山のアトリエで花教室を主宰。生きるための「日々の花」レッスン、「ハレの日の花」レッスン、岐阜県にある神様のための森「加子母の森」の花材を使ったクリスマス飾りや、お正月飾りの販売会、花に魔法をかけてくれる花瓶の展示即売会「花瓶専門店」などを不定期で開催している。2012年にディレクターの滝本玲子氏と「エプロン商会」を設立。2022年3月、エプロン商会のふたりで、古い着物の布を使って洋服に仕立て直すブランド「around」をスタート。
Photographer:Ayako Masunaga
Text & Edit:Saki Shibata